【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2020年9月

*接木のパラダイムシフト

 

「接木」とは、2株の植物を1つに「接ぐ」ことで、それぞれの持つ有用な性質を活用する伝統的な農業技術です。現代でも果物や野菜の栽培に広く利用されています。例えば、病気や塩害などのストレスに強い株を台木とし、食味や収量の良い株を接ぎ穂とすることで、効率の良い作物生産が可能となります。これまで接ぎ木できる植物の組み合わせは、近い品種に限られており遠縁な植物間では接木が成立し難いと考えられてきました。しかし、今この常識が変わろうとしています。

 

2020年8月に報告された研究では、7種のタバコ属植物を穂木として、42種類の科の84種類の種と接木(異科接木)を行ったところ、38科73種と接木が成功したとされています。非常に高い成功率です。さらに、タバコ属と同じ双子葉草本植物だけでなく、単子葉植物や木本植物も成功例に含まれています。また、タバコを中間台木として用いることも可能で、キクの台木にタバコを接ぎ、さらに上部にトマトを接ぎ穂とする接木例に成功しています。この技術を用いれば、接木を適用できる植物種の範囲をすぐにでも広げられそうです。

 

タバコで異科接木が成立するメカニズムも同研究で調査されています。試験では、タバコとアブラナ科のシロイヌナズナの接木接続部分の組織で発現している遺伝子を解析し、そのうち細胞壁形成に関与すると考えられる遺伝子「β-1,4-グルカナーゼ」に注目しています。この遺伝子の発現をタバコで一過的に抑制する実験を行ったところ、異科接木だけでなくタバコ同士の接木の成功率も低下しました。また、接木が成立する異科接木の場合ではβ-1,4-グルカナーゼの発現量が増加することが確認され、接木の成功において、この遺伝子が重要であることが示されています。更に研究が進めば、異科接木の成功率はどんどん上昇するでしょう。

 

スーパーで目にするキュウリは、ほとんどが同科のカボチャの台木によって栽培したものです。台木を使うことで、病気に強くなったり、樹勢がよくなったり、更にはキュウリの質も変わってきます。接木は、既に私達に恩恵をもたらすと同時に、個々の育種では難しい課題を解決する可能性を秘めた技術です。今後、接木技術のパラダイムシフトが起こり、これまでにない有用な「接木苗」が出てくるのも時間の問題かもしれませんね。

 

*引用文献*

 

*名古屋大学プレスリリース*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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