【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2021年1月

*植物が戦略的に作り出した『カフェイン』という物質の正体

 

ほとんどの人は、コーヒーや緑茶、紅茶といった飲み物、またはチョコレートなどから「カフェイン」を摂取しています。またカフェインには眠気覚ましなどの興奮作用や利尿作用などが広く知られており、この他にも「自律神経の働きを高める」「集中力を高め作業能率を向上させる」「運動能力を向上させる」などの効果があるとされています。このようにカフェインは、適量であれば人々にとっては有益な効果がある反面、多量に摂取すると毒性を示しますが、自然界においてカフェインは、植物間の生存競争において匠に利用されてきた成分の一つだったのです。

 

カフェインを含むコーヒー豆は、「コーヒーノキ」から採取しますが、実はこのコーヒーノキは、原産地において、“ある物質”を上手に利用し、周りの環境を自由に操り、生存競争を生き抜いてきたことが分かりました。その物質こそ、ずばり「カフェイン」です。コーヒーノキの原産地である南アフリカでは、コーヒーノキの葉が枯れて地面に落ちると、その内部に含まれていたカフェイン成分(アルカロイド)が周囲の土壌に浸透します。すると、溶け出したカフェインは他の植物が落とした種子の発芽を抑制し、結果的にコーヒーノキ以外の植物は生息できない環境を作り出します(アレロパシー効果)。

 

また、苦味のあるカフェインは、小さな虫が大量に摂取すると“毒性”を発揮するはたらきがあるため、ナメクジなどの草食動物から身を守り、コーヒーノキを食べない味覚を持つ草食動物のみが環境に“適応”し、その結果として自身が生息するのに適した環境を作り上げることに成功しています。

 

さらにさらに、開花の時期になると、ミツバチなどの花粉媒介昆虫(ポリネーター)をおびき寄せ、花粉拡散の手助けとして利用していますが、その蜜に「カフェイン」がわずかに含まれていると、蜜を吸った虫はある種の刺激を受けて脳が植物のニオイを覚える反応(長期記憶)を見せます。すると次からは虫が自然とおびき寄せられるようになり、せっせと花粉を運んでコーヒーノキの勢力拡大を手伝ってくれるというのです。

 

このようにコーヒーノキは、「カフェイン」という物質を自身の生存拡大のために、戦略的に利用してきました。植物には、脳がある?まるでこんなことを考えさせるかのように、世界中の植物には、まだまだ戦略的に作られた物質がどこかに眠っているかもしれませんね。

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