【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2022年3月

*植物の灰汁(あく)とはなにか?

 

少しずつ暖かくなってきましたね。新芽が芽吹き、植物が青々としてきます。山菜や春野菜なども取れ始め、目にも舌にも美味しい時期ですが、癖の強い野菜は灰汁を取るのが一苦労です。灰汁抜きのひと手間による美味しさには変えられませんが、そもそもこの灰汁とは、植物にとって、私達にとってどんなものでしょうか?

 

植物の灰汁は、植物種によって様々です。私達が感じるエグ味などはシュウ酸(山菜・青菜など)やホモゲンチジン酸(タケノコなど)が要因で、シュウ酸は、植物細胞のアルカリ化を中和するために蓄積すると言われています。タケノコのホモゲンチジン酸はチロシンの前駆体として存在し、硬い生体(リグニン)や光合成における電子受容体、抗酸化作用のあるビタミンEの材料など様々な用途に使われる大事な成分です。また苦味はアルカロイド類、渋みはポリフェノール類が引き起こしています。アルカロイドは捕食者からの防御機構・毒として機能しており、人が苦く感じるのもそのせいです。ポリフェノールも防御物質としての面が強く、例えばカテキンは害虫の消化阻害物質として働いて成長抑制効果があり、アントシアニン類は光合成における過度な光エネルギーの抑制や活性酸素除去に機能しています。この様に、灰汁は植物にとって自身を構成・防御する必須の成分といえます。

 

それでは私達にとって灰汁はどのようなものか。料理においては厄介者の様に扱われますが、灰汁成分自体は摂り方が適正であれば良い面も持っています。ポリフェノール類であるタンニンやカテキンは抗酸化作用が確認されています。苦味であるサポニンは免疫力の向上、ドリンク剤に見られるようになったクロロゲン酸などは中性脂肪を減らす効果など、人に利する効果がたくさんあります。また、アルカロイドは神経毒として機能しますが、適正な量であれば代謝安定化や痛み止め、さらには抗がん剤などに活用できます。まさに「毒薬変じて薬となる」です。

 

動物は植物を食べることで、己で作れない成分を獲得してきました。しかし、植物と動物では成長や代謝に必要な成分は異なり、さらに植物は捕食者に対して防御機構を持つために、動物にとって害のあるもの(灰汁)が出てきました。自然物でこれを食べれば万事順調という食べ物はありません。「料理」特に「下ごしらえ」は灰汁の除去に手間をかけますが、これらが改良を重ねたのは人にとって過剰なもの(灰汁)は減らし、必要なものを取るため、という面があると思います。山菜・春野菜の苦味を感じたら、植物たちの生きた証を感じてください。

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