【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2023年6月

*外敵から身を守れ!植物の小さな産毛に隠された秘密とは

 

雨の日が続くこの梅雨の時期。人は傘をさして雨を凌ぐことができますが、植物は雨を直に受けます。植物にとって雨は、生存に必須な「恵の雨」となることは確かですが、雨には病害となるウィルスや細菌、カビなども含まれており、病気になる危険性も持ち合わせています。植物は、人と同様に、高度な免疫系を持っており、細菌やウィルスを感知すると、免疫を活性化させ、自身を防御することは知られていましたが、詳しい仕組みまでは分かっていませんでした。しかし、最近の研究により、植物が雨に打たれると、免疫を活性化させる仕組みが、なんと解明されたのです。

参考文献

(https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/03/post-223.html)

 

植物をよく観察していると、葉の表面に産毛のような白い毛を見たことがあると思います。これは「トライコーム(毛状突起)」と呼ばれ、植物の表皮細胞が分化(発達)したものです。人間でいう「体毛」にあたり、多くの植物の茎や葉、花に生えています。このトライコームの役割は、①紫外線防止 ②水分の蒸散防止 ③害虫防御 ④貯水 ⑤防寒などが考えられています。トマトやハーブは、自身の匂い物質(トマトの場合は、青くさい匂い)をこのトライコームに溜め込み、害虫から身を守っています。実際に、トライコームのないシロイヌナズナの突然変異体は、野生型に比べ、食害を受けやすかった。という研究報告例もあります。

参考文献

(https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/55/5/55_333/_pdf)

 

冒頭の内容で、今回解明された免疫の仕組みを説明しますと、

1. 植物が雨にあたると、まずはトライコームが雨を感知する。

2. 雨を感知した組織周辺にカルシウムウェーブ(局所で生じるCaイオン濃度の

 上昇が周囲にひろがっていく現象)を発生させる。

3. カルシウムイオンが低濃度の時に抑制されている免疫抑制転写因子が、カ

 ルシウムイオン上昇により不活化され、免疫関連の遺伝子が働き、免疫が活性

 化される。

 

このような仕組みで植物が雨にあたることで免疫力が向上していることが分かりました。

 

私たち人間も植物も、「雨」から受ける恩恵と災害や病害などのリスクを持ち合わせており、自然と上手に共存していかなくてはいけません。今回解明された「雨(接触)」で植物の免疫系が活性化する仕組みを応用することで、例えば、雨や風、ミスト、あるいは人がタッチするなどの接触刺激で花色が変わったり、光ったり、発電したりする植物ができたら面白そうですよね。今回の内容をヒントに今後様々なアイデアが生まれそうです。

 

 

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