【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2023年8月

*暑いので水に浮かぶ睡蓮を思い浮かべて涼しくなりたい

 -世界最大のスイレン「オオオニバス」-

 

酷暑が続いていますね。昼間はもちろん、夜間ですら快適に過ごせる気温を超える7月でした。なので、少しでも涼しい気分に浸るため、水に浮かぶ睡蓮をイメージしましょう。睡蓮の中でも世界最大の「オオオニバス」は様々な特徴・逸話を持っていて、興味深い植物です。水面の葉上に子供が乗っている写真を目にしたことがあるのではないですか?そう、その大きな葉がオオオニバスです。

 

オオオニバスの学名は“Victoria amazonica”です。1801年に英国の探検家が南米で発見されました。当時の英国で急速に人気が高まり、時の王朝、ビクトリア女王にちなむ「ビクトリア」と、アマゾン川流域を表す「アマゾニカ」がつけられたとされています。「ビクトリア」には「偉大な」とか「大きな」という意味も含まれますので、世界最大の冠詞に相応しい学名です。

 

オオオニバスの葉は時に直径3mにもなる巨大な葉です。この巨大な葉を浮かし、時には20 kgの重さを保持できるのは、葉の裏の構造が関係しています。オオオニバスの葉を裏返すと、主脈が中央の茎から放射状に伸びています。主脈と交差するように一定間隔の葉脈が同心円状に発達し、主脈・葉脈で囲まれた空間を形成します。この空間に空気がたまり、また葉脈自体も空気をためて浮力を維持しています。例えるなら浮き輪が葉の下に仕込まれている様なイメージですね。なかなかに涼しげな構造だと思います。

 

オオオニバスの茎と葉脈には「棘」があります。うっかり握ると深く刺さって痛そうな立派な棘です。この棘で草食性の大きな魚を忌避していると言われています。逆に小魚にとっては隠れ家になるため、葉の下には小魚が定着するようです。しかし、棘を物ともしない魚も存在し、小魚は狙われ、その魚を狙った鳥が襲来するなど、諸行無常です。葉の上に巣を作る鳥類もいるなど、オオオニバスの自生地ではその存在が生物の営みの一部に組み込まれています。

 

アマゾンから持ち帰った種から、初めてオオオニバスの栽培に成功したのは、英国の造園家兼建築家ジョセフ・パクストンという方です(昔の方は多芸ですね)。パクストンは、1851年にロンドンで開催された万国博覧会で、鉄骨とガラスでできた「水晶宮(クリスタルパレス)」を設計していますが、オオオニバスから着想を得たと言われています。(プレミアリーグの「クリスタル・パレスFC」の由来です)。水晶宮は第一次世界大戦後に火事で消失しており現物を見ることはできませんが、記録はたくさん残っているので調べてみてください。巨大なガラス建築は見た目だけでも涼しげな素晴らしい出で立ちです。

 

以上、オオオニバスについてご紹介しました。水に浮かぶオオオニバスをイメージして、多少は涼を取るお手伝いができたでしょうか。スイレンに限らず、水辺の植物はこの暑さの中でも元気に生育しています。目から涼を感じるため、ぜひ眺めてみてください。

 

 

All rights reserved - Inplanta Innovations Inc.