【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2023年11月

*植物の冬支度について

 

早いものであと1カ月で今年も終わりですね。外もすっかり寒くなり、厚手のコートやニットなどを着て外出する機会もだんだん増えてきたかと思います。そんななか、ふと植物は、冬支度をどうしているのか気になりましたので、今回は植物に関する冬支度についてご紹介したいと思います。

 

・落葉

寒さや乾燥から身を守る手段として、光合成の効率が最も低下する冬季に落葉させ、春の訪れをじっと待ちます。

【例】梅、桜、カエデ、イチョウなどの落葉樹

 

・低温馴化(=耐凍性の獲得)

細胞内の水分が凍結しない低温(2~4℃)に一定期間さらされると、光合成で獲得した物質(でんぷん、糖類、アミノ酸、タンパク質)を細胞内に蓄え始めることで、耐凍性を獲得します。

【農業実例】冬小麦、ホウレンソウの低温馴化。寒締め栽培。

 

・細胞外凍結

細胞膜内外の浸透圧の差により、細胞内の水の一部が外部に移動して細胞外(細胞膜と細胞壁の間)の水分が凍結することを「細胞外凍結」と言います。細胞内凍結が起きると細胞内の様々な組織(細胞膜、核、葉緑体、液胞など)が氷の鋭い結晶により傷つけられ、細胞が死んでしまいます。それを防ぐために上記の「低温馴化」によって、細胞内に蓄えられた光合成産物が細胞内に溶け混み、細胞内の溶質濃度が細胞外よりも高くなり、細胞内の水分含量を脱水状態にすることで細胞内の凍結を防いでいます。

 

・冬芽の器官外凍結

冬芽の中には翌春なるべく早く成長を開始するために、葉や枝になる「原基」が含まれています。冬芽が氷点下近い温度に晒されると、原基細胞は細胞内水分を脱水させ、凍結を防ぎます。原基細胞から脱水された水分は、原基を支える鱗片に移動し凍結させることで、大事な原基を守っています。

【例】ブナ、カラマツ、リンゴなど

 

いかがでしたでしょうか。植物は、寒さを感じると落葉させたり、細胞内の水分を移動させ凍結死を防いだりと、巧妙なメカニズムで自身を防寒・防衛していたのですね。またこれらの防衛機能を逆手に取り、上手に農業に応用している我々人類も改めてすごいなと驚かされました。

 

(参考文献)

・今井 亮三(2004)

 植物の低温馴化の分子機構,植物の生長調節Vol.39, No.2

・藤川 清三(1996)

 凍結に植物細胞はどのように適応するか,化学と生物Vol.34, No.10

・荒川 圭太(2014)

 木質バイオマス生産を支える樹木冬芽の越冬機構の解明,

 科学研究費助成事業 研究成果報告書

 

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