【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2023年12月

*植物由来辛味成分「カプサイシン」を野生動物は食べられる?

 進化をも変えるカプサイシンの存在。

 

寒い時期には、辛いものを食べて温まりたくなりますよね。辛さにも種類はありますが、基本的には唐辛子のような「カプサイシン」を含む香辛料を使う場合がほとんどです。人類は辛いものが好きで、たくさんの美味しい料理を生み出してきましたが、野生動物はどうなのか、気になりませんか?実は動物によって、辛味に対する反応は異なります。さらに植物のカプサイシン戦略は動物の進化の過程を変えてしまうようです。

 

哺乳類ではカプサイシンを忌避しないのは一部だけ

結論から書くと、一般的に哺乳類は辛味を感じると辛味は痛覚なので不快感を覚えます。一方で、摂取が可能な種も存在します。‘ツパイ’という動物をご存知でしょうか。和名では「登木目」と呼ばれる分類で、見た目はリスのようですが、進化系統は別となる霊長類に近縁の動物です。このツパイは、他の哺乳類とは異なりカプサイシン類に対する感受性が低く、辛い植物を食べることができます。

ツパイはTRPV1イオンチャネルの遺伝子に変異があって、これがカプサイシノイドへの感受性を著しく下げることが明らかになりました。この変異はツパイが辛い植物を食べることを可能にし、食物の選択肢を広げる進化的適応であると考えられます。

ツパイのこの遺伝的特性は、特定の辛い植物パイパー(Piper boehmeriaefolium)との地理的重複によって進化的圧力がかかった結果と推測されます。この植物は、カプサイシンに似た化学物質を含み、ツパイはこの植物を好んで食べる傾向がありました。辛いものが食べられるようになる変異は摂取可能な植物種を増やすことによって生存の適応を高めるものと考えられます。

 

鳥類は辛味なんてへっちゃら

哺乳類の大部分がカプサイシンを忌避するのに対し、鳥類は問題なく摂食できます。鳥類がカプサイシンに対して感受性が低い理由は、ツパイと同様に彼らのTRPV1チャネルにおける特定の2つの点変異によるものとされています。この現象は、植物と鳥類の「共進化」の一例と考えられ、植物は辛味を持つことで多くの哺乳類を遠ざける一方で、鳥類には影響を与えず、種の分散を助けてもらいます。鳥類は餌(辛味を持つ植物)を他生物と競合することがなくなり生存に有利です。素晴らしき相互利益関係です。

 

植物由来辛味成分の商用活用の可能性

カプサイシンのアグリビジネスへの活用の研究例がいくつあります。カプサイシンを家畜類に与えることで、健康状態を改善し、免疫機能や肉質を良くするというテーマが多いようです(B. Rossi et al. (2020)、ME. Abd El-Hack et al. (2022)、下記リンク参照)。特にブロイラーなどの鳥類では、抗生物質の代替として研究されていて、自然物で代替できるのであれば、抗生物質の悪影響を軽減できる可能性があります。また家畜の食欲増進や肉質も改善できれば尚良しですが、今後の研究が期待されます。 昔から「唐辛子を米びつに入れる」など虫の忌避も確認できますので、食べる以外にもカプサイシンを含む唐辛子類の活用の幅は、まだまだありそうです。

 

Y. Han et al. 2023, (https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.2004921)

B. Rossi et al. 2020, (https://www.cambridge.org/core/journals/nutrition-research-reviews/article/single-components-of-botanicals-and-natureidentical-compounds-as-a-nonantibiotic-strategy-to-ameliorate-health-status-and-improve-performance-in-poultry-and-pigs/882DC7756D0C957A8E795650E820F1A4)

ME. Abd El-Hack et al. 2022, (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0032579121007045?via%3Dihub)

 

 

越冬機構の解明,

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