【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2024年5月

*植物がミニュチュア化することで得られる植物と人間にとっての恩恵とは

 

突然ですがみなさんは「屋久島」を訪れたことはありますか?私はまだ行ったことがありません。植物の仕事をしている以上、一度は行ってみたい場所、というか行くべき場所として考えています。ジブリ映画「もののけ姫」の舞台にもなったことでも知られており、神秘的な大自然が広がっていて世界遺産ということもあって毎年多くの方が訪れる島です。

今回その屋久島において「植物の小型化」に関する研究成果発表がありました。

「屋久島のミニチュア植物群の進化は、シカの捕食圧が原因だった!!」

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2024/05/press20240510-03-deer.html

この発表内容にある「植物が小型化すること」について今回取り上げてみたいと思います。

 

植物が小型化することを園芸分野では「矮(わい)化」といいます。矮化とは、一般的な大きさよりも小型なまま成熟することを指します。植物が小型化する要因は、

① 遺伝子によるもの(ジベレリンの生合成阻害等)

② 生育環境の影響(砂漠や高山地帯、強風圧をうけるなどの過酷環境等)

③ ウイロイド、ウィルス感染による病気

④ 矮化剤や接ぎ木、根域制限栽培など人為的に小型化させる

などが主な要因として挙げられます。

 

植物が小型化する要因のひとつに「生育環境」を挙げましたが、今回の屋久島での研究発表が非常に良い例です。本州とは隔離された離島において、植物は、天敵がいなく高密度化した「ヤクシカ」の襲撃から身を守り、自らの種の存続と反映のため小型に進化したという内容でした。

農業分野では、「矮化りんご」が知られています。矮化リンゴは、わい性をもつ台木に穂木を接ぎ木して作らます。一般的なリンゴの種類よりも背丈が小さくコンパクトな樹勢のため、高密植栽培が可能となります。作業がしやすいうえに早く結実し、品質も良く、多収穫も期待できるなどの利点があります。

鑑賞用としては、市販の鉢物(アジサイ、キク、ポインセチア等)は、矮化剤を塗布することで葉と花のバランスが整い、見た目がコンパクトでしまった株になります。また、ミニュチュア植物といえば、今や海外でも人気が高まっている「盆栽」です。松の木のように本来は10mくらいのものを小さい鉢で根域制限して栽培することで30㎝程度と、とても小さく管理ができ、普段は高くて目が届かない細かい点まで観察できるので、その姿に魅了され近年益々盆栽愛好家が増えています。

 

今回発表のあった屋久島のミニュチュア植物の研究成果は非常に興味深く、今後植物が小型化する遺伝子などがより詳細に特定されて様々な植物への応用が期待されます。個人的には、特に農業分野への貢献を期待したく、収益性が高く、収穫が重労働である作物など適材適所に応用することで新規就農者増と食料問題の解決が見えてくるかもしれません。

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