【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2024年8月

*植物のトゲはいる?いらない?

 

「トゲ」を持つ植物はたくさんあります。例えばバラやアザミ、サボテンなどは典型的なトゲのある植物ですね。トマトやイネなどの作物も、茎や葉に微細なトゲがあります。トゲの機能は様々なで、大きなトゲは草食動物による食害を避けるための防御機能、空気中の水を集めるなど生理的な機能があります。虫眼鏡でようやく見えるような微細なトゲも同様で、虫害への対策や水分を得るために機能しています。

自然界では重要な機能を持つ「トゲ」ですが、農業生産の面からするとマイナス要因です。トゲは生産者の怪我や機械の破損に繋がる厄介者となってしまいます。栽培管理によりトゲが不要でも生育に支障が無い環境ではトゲは無くしたい特徴の一つとなっています。

 

・トゲを無くす遺伝子を特定してタイパ改善!

交配育種でトゲ無し品種を作る場合は元々トゲ無しの系統が存在していることが不可欠です。トゲ無し系統と商品系統をかけ合わせてトゲ無しの性質を商品系統に移していきます。しかし交配することで、その後世代は商品価値が下がったり、栽培が難しくなったりするので、トゲ無しの性質を維持しつつ、元の性質に近づける作業が必要になります。もしも、トゲの形成に関与する遺伝子がわかっていれば、突然変異やゲノム編集技術を使って「タイパ」を改善できます。

トゲ形成に関与する遺伝子は複雑な関係性を構築しています。これはトゲの形成が環境や生物学的ストレスへの応答に関与しているからです。そのため、これまではトゲ形成に対してクリティカルな影響を及ぼす遺伝子は特定されていませんでしたが、昨今、ある遺伝子がトゲ形成に深く関与していることが分かってきました。

 

・トゲ形成に重要なLOG遺伝子

トゲ形成に重要な遺伝子を特定するために、トゲの無いナス園芸品種とトゲのあるナス科野生種の遺伝子配列が比較されました。その結果、特定の遺伝子がトゲ無しとなる31パターンのうち14パターンに関与していることがわかりました。トゲ無し形質の半分がこの遺伝子の変異によって誘導されます。この遺伝子はLONELY GUY(LOG)遺伝子といいます。LOG遺伝子は、もともと植物ホルモンである「サイトカイニン」の合成遺伝子の1つとされてきました。しかしトゲの形成に影響を及ぼすことは知られておらず、最近特定された機能です。おそらく、LOG遺伝子はトゲ形成過程の根幹部分に関与していて、その変異によりサイトカイニン合成量が変化した結果、トゲ無し性質を植物にもたらしていると考えられます。

 

・「トゲ無し」が当たり前の世界へ

LOG遺伝子に類似した遺伝子は、ナス科だけでなく、バラやナツメヤシ、ベリー類でも確認されました。他の植物でもLOG遺伝子が起点となってトゲ形成が起こっている可能性が高く、ナス科の野生植物とベリー類でLOG遺伝子を変異させるとトゲ無しの個体が得られました。この例を応用すれば、トゲに悩まされている園芸種を改良することができます。また、今は活用できていないトゲありの野生種がトゲ無し種として活用する機会が生まれるかもしれません。LOG遺伝子はトゲで悩む植物種の救世主になるかもしれませんね。

 

 

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