【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2020年5月

*『甘味』を操る植物たち

 

皆さんは甘いものはお好きですが?疲れたときの甘味は格別ですよね。現代社会で使われている甘味成分の大部分は、植物が作り出したものです。最も代表的な甘味は砂糖(ショ糖、サッカロース)でしょう。貯蔵糖として植物界に広く存在しています。ジャガイモやトウモロコシの澱粉も加工されて(果糖ぶどう糖液糖、トレハロース、マルトースなど)広く使用されています。また、最近の健康ブームから「天然甘味成分」が再注目され、さらに、植物由来の「味覚修飾成分」が疾病対策として研究されています。

 

「天然甘味成分」は強い甘味と機能性が特徴です。キク科のステビアから採れる「ステビオシド」は砂糖の300倍の甘みがありカロリーは1/90とされています。マメ科のカンゾウ(ウラルカンゾウ、スペインカンゾウ)から採れる「グリチルリチン」は甘味だけでなく炎症やアレルギー反応を抑える効果が確認されています。ウリ科の羅漢果に含まれる「モグロシド」は砂糖の300~400倍の甘味をもち、古くから、喉荒れを和らげる薬として珍重され、最近は抗癌剤として研究されています。西アフリカ原産の植物Thaumatococcus danielliiの種に含まれる「ソーマチン」は、砂糖の2000倍程度の甘さを持つタンパク質です。先進国で最も早く甘味料認可したのが日本(1979年)という経歴が有り、苦味などの不快な味を軽減させる作用や香味を高める作用も持っているため、医薬品などにも使用されています。

 

「味覚修飾成分」は味覚を変化させる成分です。ギムネマシルベスタの「ギムネマ酸」、ナツメの葉に含まれる「ジジフィン」、ケンポナシの葉にある「ホタロシド」などは、舌の甘味受容部を塞いで甘味のマスキング効果があります。これらの成分は、小腸内の糖を認識する部位にも作用して他の糖の結合を妨げると考えられ、糖の吸収を抑制が期待されています。一方で、自身は甘くないのに甘味を感じさせる修飾成分もあります。有名なのは、ミラクルフルーツに含まれる「ミラクリン」でしょう。ミラクリン自体は無味で、舌の甘味受容部に結合させた状態で酸っぱい物を食べるなど口の中のpHが変化すると甘味受容部を刺激して甘味を呈します。ミラクリン以外にも、アーティチョーク(朝鮮アザミ)の「サイナリン(クロロゲン酸異性体)」、ストロジンに含まれる「ストロジン」、クルグリゴの「クルクリン」などは甘味を誘発する成分とされています。これらの味覚修飾成分は、糖尿病や生活習慣病の改善につながるとして研究が進められています。

 

今回紹介した成分は、植物側から見れば、人間(動物)に甘味という恩恵を与えようとしているわけではなく、植物の生育を助け、捕食者や外敵から身を守るためのものです。複雑で多様な成分を作りだし、他の生物に働きかけ、ある時は強い毒となり植物自身の身を守ります。しかし、一方で、このような化学成分は、上手に使えば甘味や薬にもなるというのが真相です。未発見の機能的な甘味が、植物にはまだまだ眠っているかもしれませんね。

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