【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2018年8月

*洪水地帯で栽培されている『浮きイネ』*

 

世界各地で異常気象による数々の災害が発生しており、近年、特に目立つのが、局地的な集中豪雨による洪水です。また洪水による河川の氾濫による被害も著しい状況となっています。そんな中、東南アジアの洪水地帯で栽培されている「浮きイネ」についてご紹介しましょう。

 

植物の生存に水は欠かせませんが、水没してしまうほどの大量の水はかえって生存を脅かします。しかし、浮きイネの場合、完全に水没してしまうような洪水が長期間続くと、急激に草丈を伸ばして水面から葉を出し生き延びることができるのです。この伸長能力は非常に高く、時には草丈が数メートルに至るほどです。タイやカンボジアで栽培される浮きイネは、雨季が本格化する7月ごろに種もみをまくと、急激に増す水位に伴って茎がぐんぐんと成長していき、雨季が終わる12月ごろに水面上につけた穂を収穫します。手間はかからないですが、その反面、成長に要する時間は長く、収量が少ない稲であるのが現状です。

 

この「浮きイネ」から今年、米国と日本の国際共同研究により、水没に応答して草丈が伸長する鍵遺伝子としてSD1(SEMI DWARF1)遺伝子が発見されました。

SD1遺伝子は、ジベレリンを合成するSD1タンパク質を作り出します。SD1タンパク質は、一般的なイネも持っていますが、浮きイネのSD1タンパク質の酵素活性は、一般的なイネに比べ圧倒的に高いです。SD1遺伝子のスイッチは水没した際に生成されるエチレンで、このスイッチがSD1タンパク質を誘導します。SD1タンパク質によりジベレリンが合成され、草丈の伸長が起こり、水没しても生き延びることができるのです。

 

浮きイネの問題点は収量が少ないことです。今後は、発見されたSD1遺伝子を基に、洪水が多い東南アジアなどの地域において、水位に応じて柔軟に草丈を調節して生き長らえることのできる高収量イネの開発に期待がかかりそうですね。

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