【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2019年5月

*食虫植物『ハエトリグサ』に隠された巧妙なトラップ手口*

 

食虫植物は、世界中で500種類ほど確認されており、とてもユニークな虫の獲り方をします。生息地は、光合成では作り出すことができない栄養素が不足した湿った荒野や湿原です。そのため食虫植物は、外部から栄養を取り込むために、昆虫などの動物を捕食するよう進化したと言われています。

 

例えば、壺型のトラップを持つウツボカズラをはじめ、ネバネバした液をさじ状の葉っぱの表面や縁に出して捕まえるモウセンゴケ、二枚貝状の葉(捕食葉)で虫をパクっと挟み込みトラップするハエトリグサなど多様です。中でも、ハエトリグサのトラップのメカニズムは、非常に面白く、まるでコンピューター制御されているような実に巧妙な手口ですので詳しく見ていきましょう。

 

ハエトリグサの二枚貝状の葉の内側は虫を惹き付けやすい赤色で、蜜腺から蜜を出すことで虫をおびき寄せます。さらに葉の内側には、左右3本ずつ感覚毛と呼ばれる突起があり、この突起に虫が2回触れる葉が閉じます。さらに、この感覚毛への接触1回目と2回目の間隔が30秒以上空くと葉が閉じないことが実験から分かっています。葉を閉じるのは非常にエネルギーを要することで、誤作動は株の枯死につながる恐れもあり、風や雨粒等による誤作動を防ぐため、感覚毛に「30秒以内に2回触れると閉じる」仕組みを持っているのです。

 

この、30秒以内に2回触れると閉じるというメカニズムをコントロールしているのは「ジャスモン酸グルコシド」と呼ばれる物質です。感覚毛への接触により「ジャスモン酸グルコシド」が蓄積され、十分量(閾)を超えると電流(シグナル)が発生し、細胞の膨圧運動が起きて葉が閉じる仕組みとなっています。ジャスモン酸グルコシドは徐々に拡散する性質があり、接触の間隔が30秒以上あると、拡散により十分な蓄積がなされないため葉を閉じることはありません。こうして、誤作動を少なくすることで、生存効率を良くしているのです。

 

ハエトリグサの研究は、植物運動の研究にかかすことができません。将来、私たちの行動に反応してくれる植物が食中植物から生まれてくるかもしれませんね。

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