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【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】
2021年9月
*光る植物を求めて研究者はゆく。
皆さんは、「光る植物」を見たことがあるのではありませんか? 光る植物は、小説の中や映画の1シーンなど、私達が目にするファンタジーなフィクションの世界にたくさん存在しているからです。それほど、人類が渇望しているという事かもしれません。では、現実世界に光る花は存在しないのか? 実は、人類は光る植物を作ることに成功しています。今回は、発光植物開発の変遷を追いかけつつ、光る植物が人類に何をもたらすのか、ご紹介します。
「光る~」と聞いて、アカデミック分野でまず出てくるのはノーベル賞に選ばれたこともある蛍光タンパクの「GFP」ではないかと思います。GFP:緑色蛍光タンパク質(1961年発見)は、青色の光を吸収して緑色の蛍光を発します。GFPは研究ツールとしては大大大発見ですが、「光る」という観点では光が弱いものです。そこで、様々な生物から強く発光する蛍光タンパクが探索されて、植物にも導入されています。海洋プランクトンの一種であるキリディウス属(Chiridius poppei)由来の、黄緑色蛍光タンパク質CpYGFPはトレニアやシクラメンに導入され、拡散防止措置をとった上で展示されました(「光るシクラメン」で検索してみて下さい!)。一方で、GFP類の放つ光は「蛍光」なので、「光らせるために光が必要」という状況であり、厳密には自家発光ではありません。
別の発光システムとしては、ルシフェリンールシフェラーゼ系(発見自体は1887年)があります。ホタルなど生物発光する生物は、「ルシフェリン」という発光物質を保持しており、これが酵素「ルシフェラーゼ」の作用によって発光します(ルシフェリンが酸化され、その反応時に励起状態になるカルボニル基が基底状態に戻るときに光としてエネルギー放出される)。生物発光できる生物は、類似のシステムを持っており、様々なルシフェリン、ルシフェラーゼが確認されています。ルシフェラーゼを植物に導入し、給水やスプレーで外部から基質(ルシフェリン)を添加してやることで暗闇で視認できる光る植物を作ることが出来ました。一方で、ルシフェリンを植物内で恒常的に合成させることは難しく、やはり外からの基質供給無しに自家発光させることは難しい課題でした。
では、自家発光させるためにはどうすればよいか? これを解決したのが、真菌(キノコ)のルシフェリンでした。真菌のルシフェリン合成は、コーヒー酸(カフェイン酸)が元になっています。これが重要なポイントで、コーヒー酸は細胞壁合成に不可欠な「リグニン」の中間体であり、全ての植物に含まれています。ルシフェラーゼを導入した植物を作り、さらにコーヒー酸の一部をルシフェリン合成に割り当てられるようにしたところ、恒常的に自家発光する植物体が作り出されました(2020年4月)。人類は光る植物を作り出したのです!
光る植物は人類にどんな恩恵をもたらすでしょうか。まずは単純に照明ライトとして使用できるかもしれません。街路樹を光るようにできれば、電気を供給すること無く夜道を照らすことが出来ます。そのままでは弱い光でも、レンズなどを使って光を集めることで実用に耐えるのでは?という研究も進んでいるようです。もう一つは光合成によるCO2固定です。植物が光ることで、弱いながらも夜間も光合成することができ、CO2をより多く吸収するようになります。SDGsが叫ばれる現代において、たいへん役立つ植物だと思いませんか? 先日(9/8)、MITから蓄光物質アルミン酸ストロンチウムを植物に取り込ませて、発光する植物を作成したと発表がありました。可視光線と紫外線によりチャージされ、10秒の青色LED放射で、最大1時間発光したとされています。この様に「光る植物」の研究開発は様々なアプローチが試され、日進月歩の分野です。将来、夜道を照らすのは植物たちかもしれませんよ?
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