【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2021年10月

*記録葉(きろくよう)に使われた植物の葉っぱ

 

ハガキを漢字で表すと“葉に書く”と書きますが、この“葉書”という語源のもとになった多羅葉(タラヨウ)という植物をご存知でしょうか。

 

タラヨウは、樹高10mくらいになるモチノキ科の常緑広葉樹で原産地は日本です。見た目はどこにでも生えてそうなごく普通の樹木ですが、実はこのタラヨウの葉の裏側には、ある特殊な性質があるのです。

それは、葉っぱの裏に爪楊枝など尖ったもので字や絵を書きしばらくすると、文字がくっきりと浮かびあがってきます。人間でいうところの「かさぶた」のようなもので、傷口から病原菌が入り込まないよう黒くなって傷を固めてしまう独特の性質を持っています。葉に傷をつけて字を残すなら他の植物でもいいのでは?と思われますが、実はタラヨウの葉にはポリフェノール類、タンニンなどが含まれており、傷をつけてから短時間で色が黒くなり、すぐに文字が浮かび上がり、乾燥しても文字が消えずに長く残る性質があります。そのためタラヨウは、別名“ハガキの木”とも言われ、「言葉を保存する葉」として選ばれました。

実際に平安時代は経文の記録、戦国時代は情報のやり取りに利用されるなど、長年にわたりタラヨウの葉の性質が利用されてきました。そして平成9年に郵政省(現・日本郵政公社)が郵政省環境基本計画の一環として、ハガキの木の別名をもち、常緑樹で耐火性があるタラヨウが、「環境保全や防災に役立つ緑化を推奨する郵便局のシンボルツリー」に選ばれ、全国の郵便局に植栽が奨励されました。

 

ちなみに実際にタラヨウの葉に宛先を書き、120円切手を貼ってポスト投函すればちゃんと宛先まで届けられます。厳密には、「ハガキは長方形の紙に限る」という郵便規定があるため、ハガキではなく定型外の「第一種定形外郵便物」扱いになりますが(笑)。

 

通信技術の発達により、スマホアプリやSNSなどで簡単に早く相手にメッセージを届けられるようになった現在。年賀状でハガキを送る習慣は残りつつあるものの、昔に比べて字を書く習慣も益々減ってきています。そんななか、植物の葉を使い、あえて時間をかけてお祝いやお礼のメッセージなどを相手に届けてみてはいかがでしょうか。

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